ブルネイ(13)~ラスベガスより脆弱なブルネイ、出口はどこ?

<前回>

 ブルネイは、ラスベガスよりも産業構造・基盤が脆弱だ。賭博産業はいつまでもやっていけるが、石油や天然ガス資源はいずれ枯渇する。

 ナウル共和国。国家規模や経済総量、社会構造がブルネイと異なるものの、類似性参考事例として見てほしい。南西太平洋に浮かぶナウルは、リン鉱石の採掘によって富を成した島国だ。世界で最も高い生活水準を享受し、税金なし、医療・教育無料、年金保障をはじめとする手厚い社会福祉を国民に提供していた。これは今のブルネイに大変似ている。

150504-1509-MH731-BWN-KULボルネオ島から南シナ海上空に出るマレーシア機内から

 しかし、20世紀末にナウルの鉱石資源が枯渇した。基本的インフラ維持も困難となった同国の経済が崩壊し、近隣国のオーストラリアやニュージーランドそして日本に援助を求めるほか活路はなかった。ここからは注目に値する展開になる。中華民国(台湾)と国交を持っていたナウルは2002年7月にその国交を断絶し、中華人民共和国と国交樹立。そこで中国から1億3000万ドルの援助を引き出した。しかし僅か3年後の2005年5月に今度中国と再び国交を断絶し、台湾と復交した。翌年、台湾の援助を手に入れた。

 ナウルは中台の政治・外交駆け引きのカードに自ら成り下がったのであった。国家崩壊に陥ったナウルの教訓に学ぶものが多い。ナウルでは最終的にほぼ国民全員が労働の義務から解放され、リン鉱石の採掘も外国人労働者に任せきり、国民の総資本家化となったのだった。リスクを取って事業を興す意味が見出せないし、ガツガツ働くことも美徳とされなくなれば、人間は勤労意欲を失う。

 ナウルはあまりにも極端のケースで、ブルネイとそのまま比較するには必ずしも妥当とは言えないが、共通している部分は、国民の勤労意欲の低下・喪失である。国民は勤労生活をもって自らの手によって富を創出し、それを政府の財政に貢献する一方、政府が相応分の恩恵や保護を国民に与える。このように、国民国家の本来あるべき姿がいつの間にか消え去り、気がつけば国民が国家の被扶養者になってしまったのだった。そうなれば、国民が食わせてもらっている以上、政府にものを強く言えなくなり、政府の家父長制化とともに統治者や特権階級への強権や富の集中が進む。

 ブルネイは資源枯渇危機を意識していないわけではない。現に国家を支えてきた石油と天然ガス資源依存からの脱却を図ろうと、産業の多様化に取り組んでいる。太陽光発電やメタノール、アンモニア、さらにはハラール食品の製造流通ハブ化など様々な努力もなされている。だが、明らかな成果はまだ見られていない。原因は多様であろうが、国民のやる気のなさがその主因の一つであることは間違いなかろう。

 ブルネイと近隣諸国の関係は実に微妙なものだ。筆頭に言及すべきは、マレーシア。ブルネイの国土はマレーシアのサラワク州に囲まれる飛び地で、どこよりもマレーシアとのつながりが強いはずだ。私もこれを信じ、ブルネイの視察旅行にはマレーシアリンギットしか持っていかなかった。しかしそれが、ホテルしかもブルネイを代表するいわゆる7ツ星のエンパイヤホテルでブルネイドルへの両替を拒否された。市中心部の所定銀行店頭や両替店でしか両替できないという。

 驚いた。ブルネイから1000キロ以上離れたシンガポールの通貨シンガポールドルが、ブルネイドルと等価に固定されており、ブルネイ国内でそのまま流通・使用されているのに、すぐ隣のマレーシアの通貨は両替さえ制限を受けている。

 いや、距離のことをいったら、もっと面白いことがある。ブルネイ本土からわずか50キロ足らずの沖合に浮かぶマレーシア連邦領のラブアン島(Labuan)。このラブアンは、1990年マレーシア連邦オフショア会社法の制定によって、オフショア金融センターに指定され、国家規模の一大金融事業として発足した。現在マレーシアのオフショア金融センターないし租税回避地として東南アジアや中東の注目を集めている。言ってみればマレーシアのケイマン島のような存在である。

 どういうことかというと、将来的に資源枯渇したブルネイが転身してオフショア金融を目指すとなれば、先発優位性をもつラブアンが強力なライバルとなるだろう。マレーシアの意図的な戦略か、たまたまの偶然か定かではないが、結果的に先制効果となることは間違いなかろう。ブルネイには、退路が一つ減った。いや、マレーシアがブルネイのために一つの退路を作ったという見方もできる。

 第二次世界大戦終結後、ボルネオは日本軍の手から離れイギリスによる直接統治領になったが、1957年に先立って独立したマラヤ連邦の呼びかけに応じ、63年にシンガポール、サラワク、サバの英国領植民地が統合してマレーシア連邦が発足する。その当時、ブルネイだけが連邦に参加せず、英国植民地のまま残った。その主因はブルネイ沖の海底油田の利権絡みであり、これをめぐって利害関係者たちにどのような思惑や計算があったのだろうか。

 前述の通貨協定をはじめ、今日のブルネイとシンガポールの関係が緊密である。ブルネイ国王がシンガポールにホテルを所有し、シンガポールで高度な医療を受けるブルネイ国民の定宿として機能している、という話も聞いたことがある・・・。まあ、国王一族がシンガポールという国際金融センターを活用して資産運用することも十分に考えられるだろう。

 その時間軸の延長線上で考えると、ブルネイの資源が枯渇した場合、シンガポール、あるいはマレーシアがなんらの形でブルネイを飲み込むことも不可能ではない。ならば日本ももっと積極的に関与すべきではないか。ブルネイの輸出相手国別では日本が全体の3割以上を占め突出している。ブルネイのLNG輸出総量の9割は、東京ガス、東京電力と大阪ガスというメジャー3社向けである。

 いまは地球規模の秩序再編が進んでいる。そのなかであらゆる可能性を考え、二国間あるいは地域的共存共栄の構図を提案していくことが求められている。日本のプレゼンス向上を心から期待している。

<終わり>

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