救急車で運ばれる、私のマレーシア緊急入院実録

 7月9日(木)未明。私は救急車で運ばれて緊急入院した。

 前日夜の夕食後に、突然鼻の左側から大量の出血があった。もともと鼻の粘膜が弱く、時々出血があるので、それほど緊張しなかった。いつもなら小鼻をぎゅっとつまんで5~10分せいぜい20分ほどで血が止まるが、今回の様子は違った。どんなにつまんでも血が止まらない。出血の勢いがよく、圧迫止血したところ血液は鼻腔の後ろに回り後鼻孔からのどに流れ落ち、凝固塊となり吐き出される。

 深夜に突入し、一時状況が良くなったものの、再度激しい出血が始まる。病院に電話して一応翌日午前に予約を入れたが、このままの状態では出血多量になり、危ないのではないかと、ついに未明3時過ぎに病院に救急車を要請する。

 ちなみにマレーシアの場合、日本と違って救急車は公共サービス(999番電話)と民間サービスが分かれている。前者は病院指定不可で、国公立病院へ搬送される。医師や設備などの医療レベルでいえば、私立病院の方が断然上であるから、当然民間サービスを利用する。救急車を有する私立病院のプリンスコートに電話する。30分後到着するということで、ただひたすら待つ。

 3時45分、救急車が自宅前に到着。乗るとすぐにプロが緊急手当を始める。だが、状況は変わらず、一向に血が止まらない。日本大使館の近くにあるプリンスコートまでの道のりは早朝で交通量がなく30分弱。交通量が少ないので、サイレンを鳴らすこともなく静かな搬送となった。

 4時15分、プリンスコートの緊急外来で処置を開始。一瞬に各種の医療機器のピーピー音に囲まれ、救急ムード満点。通常の圧迫法で出血が止まらないのは出血部位が広範にわたり、後方にも及んでいる可能性があることから、緊急のパッキングとして、後鼻バルーンタンポン法が使われる。バルーンカテーテルを鼻腔後方まで突っ込むと風船のように膨らみ、まんべんなく鼻腔全域を止血する。

 まさかひも付きのタンポンを鼻に突っ込むとは、想像もできなかった。タンポンが真っ赤に染まってくると、外部からさらにガーゼを当てて吸収する。タンポンとナプキンの併用かと、不謹慎ながらもイメージしてしまう。

 1泊か2泊の入院と告げられる。入院に必須なコロナPCR検査がすぐに行われる。言われるほどの痛みも違和感もなく、咽頭拭い液の採取でこれもまた検査棒を突っ込まれる。10秒くらいで終了。万が一、コロナ陽性となった場合、鼻の治療に当たる医師に感染リスクが及ぶので、別途方法を考えないといけないという。

 朝、病室に搬送される。病室はシャワーとトイレ付の個室でまあまあ悪くない。その後は天井とひたすらにらめっこの時間が訪れる。「ナプキン」ガーゼの交換が定期的に行われると、「タンポン」の色がだんだんピンクに薄れていく。どうやら止血が効いたようだ。ここまでやるとなるとやはり自宅では無理で、救急車を呼んだのは正しかった。

 午後16時、一般病棟の耳鼻科に車椅子で運ばれる。出血が止まったので、鼻腔の洗浄を行い、出血場所を特定するための内視鏡検査が始まる。出血は主に両側のキーゼルバッハ部位(鼻中隔の前下端部の静脈集結粘膜部位で鼻血の好発部位)で、レーザー焼灼を施し、再出血の予防処置を行う。これもいってみれば、小手術。麻酔をかけて数分で終わる。

 このまま出血がなければ、明日の朝、検査なく退院できると主治医に告げられると、一安心。あとは鼻腔のスプレーを自宅でやり、1週間後のフォローアップ検査で問題がなければ、治療が終了するという。

 病室に運ばれる夕食は、照り焼きチキンと温野菜、マッシュルームスープに、なんとデザートにアイスクリームもついている。病院食にしては豪華だ。鼻からタンポンも取れたことで、楽に食事ができた。医師の了解を取って、シャワーもして全身の血痕をきれいに洗い落とし、さっぱりした。幸福感満点。

 23時、就寝。早朝5時半に看護師が入室。血圧測定や検温。6時半に朝食。10時に退院手続を済ませ、帰宅。自宅で血圧を測ると、いつもより低い。やはり、10時間にわたる出血はかなり多量だったようだ。救急車搬送がなければ、危険だったかもしれない。まあ、よかった。とりあえず。

 退院手続の際に、会社提出用の病欠証明書が必要かと聞かれたが、もちろん、要らない。経営者の場合、顧客に提出して承認される病欠証明書は存在するのだろうか。しばらく休息してまた仕事に戻りたいと思う。

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