ロシアに地獄が待っているのか?それとも…

 弱者は力で強者に勝てないが、解釈で強者に勝つ――。強者は邪悪、弱者は正義。邪悪は負け、正義は必ず勝つ。此岸(現世)でそうならなかったら、彼岸(来世)ではそうなる。悪は地獄に堕ちる。つまり宗教はルサンチマンのインフラなのだ。ニーチェはこう説いている。

 現代人はせっかちで彼岸まで待てず、目先の此岸ですぐに「地獄」を用意したがる。ロシアにも、すでにたくさんの「地獄」が用意されている。キエフ難攻不落でロシアはもう負けているとか、長期戦に陥ってロシアは経済的にもたないとか……。そういった解釈は、時間・歴史の検証を受けるだろう。

 ロシアには、地獄が待っているだろうか。

 経済制裁をかけ、ロシアを国際金融システムから追い出した以上、土俵から追い出した以上、勝ち負けがなくなる。デフォルトとか既存土俵の枠組内で語るのは無意味だ。しかし、中国がロシアと別の土俵をこの際つくってしまうと、世界は変わる。土俵の複数化ということだ。

 英語で「Pick a side」というが、各国は「どちらにつくか」の選択をしなければならない。企業としては「Take both sides」、二股をかけるのが都合がよい。これまでは「政冷経熱」という現象があったが、「政経一体化」に伴い二股はなかなか難しくなってくる。

 ロシア、中国、中東、インドあたりがどうも別土俵をつくっているようにも見える。2つの土俵はつまり世界の分断、新冷戦の幕開けを意味する。第三次世界大戦になるかどうか分からないが、第二次冷戦になるのはどうやら間違いないようだ。

 20世紀90年代初頭、ソ連と東欧共産圏の崩壊をみて、世界は共産主義の終焉を喜び、歓呼し、祝杯を挙げた。冷戦終結は、「有事」から「平時」への移行を誤って宣告したものだ。ニュールンベルグ裁判にあたる総括はなかった。旧東欧社会主義諸国は相次いで西側世界の暖簾をくぐって米国の傘下に収まった。NATOの拡大はまさにその表れだ。

 しかし一方、中国やロシアは安易に米式の自由・民主主義を受け入れなかった。他人のルールに従った時点で、負けであることを知っていたからだ。この2つの大国はしっかり敗戦の原因を分析した。彼たちは、共産主義の負けから学び、新たなルールメイカーになるよう力を合わせ、米欧西側自由主義陣営と対抗を始めた。

 この本質を看破したトランプは、中露の分断に乗り出した。中露の共通項は「独裁的強権」。それに対抗するには「強権」しかない。しかし残念ながら、強権を目指したトランプは民主主義に打倒された。その後、バイデン政権はトランプ路線に逆行し、特にウクライナ戦争によって、中露の結盟を加速化させてしまった。

 もう1つの土俵ができた時点で、地獄が待っているだろう。それは、誰にとっての地獄だろうか。

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