「越の一」。――ベトナム産日本酒SAKEを追い求めて、私はフエにやってきた。日本で美味しいウイスキーが造れるなら、ベトナムで美味しい日本酒が造れないはずがない。私はそう思っていた。
2015年当時、はじめてベトナムで現地産の日本酒「越の一」を飲んで驚いた。やや角が立っていたように感じたにもかかわらず、スッキリして美味しい酒だった。何よりもその安さに圧倒された。その値段で日本国内を探しても同クラスのものは見つからないだろう。
以来、ベトナム出張するたびに、「越の一」を飲んでいた。そしてコロナ解禁のベトナム出張、3年ぶりに飲んだ「越の一」の味は角が立っていた感が消え、まろやかになったことにまたもや驚いた。
マレーシアでは日常的に日本国内産の高い日本酒しか飲めない。この「越の一」をマレーシアでも飲めないかと一念発起し、ベトナムの知人経由で黒川社長に声をかけてみた。
ベトナム産の日本酒をマレーシアやシンガポール、タイなどの東南アジアないし中国やインドへ輸出し、現地で知名度を上げられないものかと思った。もちろんアルコール類の輸出入にはそれなりの関門があることは知っているけれど。
Hue Foods社は「越の一」だけでなく、「嬢薫」という純米大吟醸も出している。ほかに焼酎や梅酒なども多種類を生産している。当日の会食では、「嬢薫」のプレゼントをいただいた。いかにもベトナムらしいフルーティーな薫りが素晴らしい。
会食の場として、ローカルの店を黒川社長が選んでくれた。シーンの確認には最高だ。ローカルフードとローカルの「場」に日本酒は溶け込めるのかを確認したいからだ。なんとうまいマグロの刺身まで出してくれるとは想像できなかった。
刺身といっても、切り方は少々雑だった。いや、それでいいのだ。正統派や本格派を求めず、地元流の「JAPAN」でないと意味がない。ローカルの人々がイメージし、作り出した「JAPAN」や「SAKE」がローカルのためにある。それでいいのだ。
知らないうちに、酔ってしまった。夢も膨らんだ。