世界はもはや脱中国できない、本当の原因はここにある

 アメリカは中国にデカップリングできるのか、それはアメリカ1か国のことだが、アメリカは世界を巻き込んで中国とデカップリングしようとしている。つまり、世界は米国系と中国系という2つの系統に分かれ、米国は諸国にどちらの系統に入るか選択を求め、イデオロギー次元で「歴史の正しい選択」を迫った。それはできるのだろうか?結論は「NO」。その理由を述べよう。

● 経済的利益の衝突

 例を挙げよう。米国の裏庭である南米の大国ブラジル。ブラジルと中国の二国間貿易額は、2002年の44億6900万ドルから2022年の1714億9000万米ドルへと拡大した。20年前の1年の貿易額は、今や1週間ちょっとで達成してしまう。そんなブラジルは中国とデカップリングできるはずがない。ブラジルのような国はどのくらいいるのか、数えたらわかる。

 米国のいわゆる民主主義だけで飯を食っていけないのだ。そもそも、民主主義と独裁専制というイデオロギーの対立で世界が分かれるなど、それは米国がでっち上げた真っ赤な嘘、あるいは希望的観測にすぎない。人間はまず食わなければ生きていけない。マルクス主義は、イデオロギーは経済的基盤(下部構造)の上に成り立つ上部構造として捉えている。

 まずは経済。決して「イデオロギーの衝突」ではない。世の中の対立や闘争はすべて、「経済的利益の衝突」「文明の衝突」の2つの衝突に起源し、そして場合によっては「経済的利益と文明のジレンマ」を抱えている。

● 文明の衝突

 サミュエル・ハンチントンはその著書『文明の衝突』のなかで、世界を西欧、中華、日本、イスラム、ヒンドゥー、スラブ、ラテンアメリカ、アフリカの8つの文明に分け、様々な紛争を、異文化間の衝突と捉えた仮説を立てた。米国は意図的に「文明の衝突」を「イデオロギーの衝突」にすり替えたのだ。

 アメリカはそもそも独自の文明をもたない。わずか400年の歴史しかない米国は、西欧列強の植民・略奪・搾取を表面上否定しつつも、その本質を変えることなく継承し、今日においても世界諸国で民主主義という便利なツールを駆使し傀儡政権をつくり、大国の地位を悪用し、各国ないし先祖ルーツである欧州まで搾取してきた。

 大雑把に言えば、米中の対立は、アングロサクソン系の西欧文明と中華文明の戦いである。私が繰り返してきたように、中国はたとえいわゆる米国型の民主主義国家になったとしても、米中の戦いは決して終わらない。中国が米国にひざまずき臣服しなければ、米国は民主主義制度を利用し、中国で親米政権を擁立するだろう。

 民主主義が世界の普遍的価値という定義は存在しない。アメリカのでっち上げだ。

● 経済的利益と文明のジレンマ

 経済的利益と文明のジレンマ、これこそが現今世界の普遍的現象だ。典型的な事例は、日本文明と中華文明の衝突。

 日本文明は、中華文明から生まれながらも、1か国のみという独自の文明に発展した。黄色人種の場合、中華と日本の2つの文明しかもたない。すると上位争い現象が生まれる。言うまでもなく、日本は優位性を確保するうえで、「脱亜入欧」という差別化戦略を取った。中華文明との同根性を意図的に隠蔽したり、競争(嫉妬)心をもったり西欧文明に近づこうとした。

 一方、日本は経済的利益に基づく中国依存から脱することができず、それは私が指摘してきたように、「頭は反中、財布は親中」というジレンマにつながった。

 台湾はどうか。日本と違って、紛れもなく中華文明に所属している。中国への経済的依存は日本と変わらないが、経済的利益と文明のジレンマの面では、独自の様相を呈している。中華文明の影を隠蔽するうえで、「台湾」の独自性を強調する。ただそれに限界があるから、そこで台湾固有の親日性に便乗し、日本文明の傘下に入ろうとする。

 日本人の「脱亜入欧」と同じように、台湾人の「脱中入日」のメンタリティーはこうして生まれたのだ。ただ台湾人全員ではない。日本と違って台湾には「中華文明派」と「日本文明派」がはっきりと分かれた。

● 結論

 諸種の葛藤やジレンマを抱えながらも、顕在的であれ潜在的であれ、経済的利益がつねに基盤である。中国への経済的依存を完全に断ち切って自立できる国はいるのだろうか。中国デカップリングなら、まずはシナリオを描こうではないか。それすら怖くてできないのでは、話にならない。

 米中の戦いは、米国が負ける。その理由は、中国は長期戦略をしっかり持っているが、アメリカのそれが見えないからだ。民主主義下の指導者は自分の任期スパンしか考えないのだ。

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