マレーシア移住(43)~「ほんまもん商品」と「ほんまもん商売」の違い

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 アジアの日本料理店。アジア現地人客に合わせて「非王道」系の日本食を出すと、日本人客に怒られる。「現地人に迎合する料理を出し上がって」と。そういう日本人客は無視すればいい。江戸前が食べたければ、日本に帰ればいい。アジアでの店はローカルに合わせるのが当たり前だ。

 一方、日本の中華料理の98%は、日本人の好みに合わせて改造された「非王道」系のフェイク中華を出している。あんな片栗粉ドロドロな中華は食べられたものではない。私は以前横浜中華街のレストランでスタッフの賄い料理をお金を払って食べていた。中国人は外国人に本物中華を食べさせない。多く(ほとんど)の日本人は一生に一度も本物中華を食べることがない。中国人が外国人に売っているのは、外国人の好みそうなフェイク中華だからだ。

 私のこうした記述に反論が寄せられた――。「立花さんは海外の日本食に関しては、偽物であっても売れる日本食が良い日本食で、海外で本物の日本食を追求するのは自己満足で馬鹿げているとすら主張しています。だったら、偽物中華愛好者を批判するのは、おかしいのではないか。そのなら、海外で外国人向けの売れる日本食も偽物日本食であり、それを食べる外国人も一生に一度も本物の日本食を食べられない偽物愛好野郎と言わなければならない。立花さんの発言に矛盾がないのだろうか」

 まず、「偽物愛好者」を「野郎」と蔑称するのをやめてもらいたい。2つの異なる目線を私がずっと説いてきた――。ビジネス目線(売る側)からすれば、海外市場の「偽物売り」が正しい。一方、消費者目線(買う側)もあって、私は1人の消費者としてその顧客にはならない。というふうに、2つの異なる目線、ある種の「二重基準」が存在する。

 中国人は商人として非常に賢い。彼らは自分で食べる本物中華と日本人(外国人)に売る偽物中華を区別しているのだ。自ら本物中華を食べながらも、外国人客に偽物中華を売る。それは矛盾ではない。

 一方、大方の日本人は職人であるから、海外で頑として偽物を拒み、本物和食を売ろうとする。これは確かに矛盾していないと言えるかもしれない。だが、気が付いたら、売れたのは軒並み偽物和食だったりする。たまに「非国民的」な日本人もいて、偽物日本料理で外国人からお金をたくさん稼いだりもする。「NOBU」の松久信幸氏もその1人だ。素晴らしい経営脳の持ち主だ。

 マヨネーズギトギトの巻物を本物寿司と思って好む外国人客も、片栗粉ドロドロな麻婆豆腐を本物中華と思って食べる日本人客も、売り手にとっていずれも良い客だ。商人は、必ずしも自ら好む商品を売るとは限らない。これは決して矛盾ではない。二重基準的な戦略である。

 自分の好まざる、ほんまもんでない商品を平気で売る。それこそがほんまもん商売だ。

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