「NOBU」クアラルンプール店では、中秋節に合わせて「月餅」を売り出した――。緑茶、さくら餅、みそ卵黄やわさび卵黄……。代表的な中華菓子にこれだけ和の要素やフレーバーを融合させ、高い付加価値を付けた作品の数々。
<写真>「NOBU」メールから転載
いわゆる「王道」、本格的な和食というこだわりを捨て、海外現地消費者の感性や味覚との親和性を重視した商品開発は、「NOBU」のサクセスストーリーの本質である。正直、このような商品開発は技術的にそんなに難しいとは思えない。発想と感性の問題だと思う。それだけの話(参照:NOBU【後編】~日本料理は日本人のための料理だけではない)。
松久信幸氏は、私がもっとも尊敬するシェフ・経営者の1人である。氏は高い学歴をもっていない。高校卒業後に新宿の松栄鮨で修行を始める。店の顧客に誘われ、南米リマの寿司店を任される。ここで現地の食材に目をつけた松久氏は、日本食とペルー料理の融合を試みる。その後、アラスカで自分の店をオープンするも直後に全焼。カリフォルニアに渡り転々と数店の日本食レストランで働いた後、ついに1987年、ビバリーヒルズに自分の店をオープンさせる……。
今や世界の「NOBU」となり、一大「日本食帝国」を作り上げた成功の要因とは何か。私は、ひとえに松久氏の生命力とサバイバル力だと思う。「生命力」とは退路を断たれ、生き延びるために必死になり、何でもやるという野獣感。「サバイバル力」とは、そのための技である。
「NOBU」の日本料理を好む日本人は少ない。日本食に付着する郷愁的なフレーバーが感じられないからだ。それはどうでもいい。「日本人を相手にしない」日本料理店があっていいと思う。世界で売れれば、それでいい。それこそが「クールジャパン」なのだ。あの官製版自称「クール」ではないけれど。
本物も王道も、必ずしもクールではない。売れるものが、クールなのだ。