マレー半島北部の旅(7)~マハティールは「親日家」ではない

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 アロースターは、マハティール氏の生まれ故郷だ。氏の生家はちょっとした博物館(Rumah Kelahiran Tun Dr. Mahathir)になって一般開放されているので、足を運んでみた。

 小さな木造建築の家は、想像していたよりは質素。当時使用されていた家具や調度品などがそのまま展示されている。マハティール氏少年時代の写真や家族写真もたくさん飾られており、なかなか見応えがある。

マハティールの生家

 マハティール氏といえば、日本を学ぶ「ルックイースト政策」を掲げるなど、日本との深いつながりがあり、親日家としても知られている。しかし、私は氏は決して親日家だとは思っていない。正確に言うと氏は愛国者であり、国益のためなら親日でも反日でも豹変できる指導者である。

マハティールの生家・ダイニングルーム

 時代的に日本から学ぶことが国家に有益だから、「ルックイースト政策」を取った。それだけの話だ。日本ではあまり報じられていないが、氏はマレー人と華人の能力差を明言し、華人から学べとも盛んに呼びかけている。

 「マレーシアでは、大多数のマレー人が貧しい。しかし大多数の華人は富裕だ。貧富の格差を解消する必要がある。華人は4000年の優れた文化、知恵と勤勉さ、そして国際的競争力を有している。マレー人は華人と競争できない」(2021年2月18日付マレーシア南洋商報)

 強烈な発言だ。マハティール氏が日本の政治家だったら、差別と糾弾され、謝罪の1つや2つで済まされると思えない。祖国を愛しているからこそ、問題点を率直に指摘するのはマハティール氏である。

 要するに、華人からも日本人からもいいとこ取りして学べと言うわけだ。

 マハティール氏は5月26日、NHKのインタビューに応じ、IPEF(インド太平洋経済枠組み)について「中国を排除し、対抗しようとするものだ」として否定的な見方を示した。日本人的な感覚ではこれが「親中」とも言えなくはないだろうが、そうではない。彼はあくまでも「国益」に徹しているだけだ。

 そもそも外国人の分類という意味で、日本人のいわゆる「親日」云々はある種の錯覚、あるいは自信のなさの表れだ。長い海外生活から、私はある仮説的な結論に到達した――。

 外国人には一部マニアックな日本ファンはいるものの、原理主義的な親日家はほとんどいない。いてもほんの一握り。某国人が親日だとかそういう次元でいえるような規模ではない。そして、マハティール氏は少なくとも日本人が考えているような「親日家」ではない。

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