4階建てピラミッドの異変(2)~できる?サプライチェーンいいとこ取り

<前回>

 前回で述べたように、世界の産業は4階建てのピラミッド――。

 底辺の1階は、エネルギー・農業(ロシア等)。
 下層の2階は、労働集約型製造業(中国・アセアン諸国等)。
 中層の3階は、知識集約型製造業(独・日等)。
 上層の4階は、金融産業(米英アングロサクソン)。

 20世紀90年代以降、グローバル化が急激に進んだ。グローバル化の発端は、一言で言えば、資本主義の搾取にほかならない。要するに、産業構造の底辺や下層といった付加価値の低い、あまり稼げない産業を途上国に移転させ、先進国は中層や上層のもっと儲けの良い産業に特化する産業配置モデルである。

 一方、途上国の貧しい人々は餓死するよりは、搾取されようとわずかな工賃でもいいから、糊口を凌ぐ糧を得、少しでも豊かになるために汗水流して働きたいわけだから、「被搾取」のニーズがあったのだ。

 中国はこうして20年の時間で、地球全体に供給するサプライチェーンを築き上げた。その中身は「下層」にあたる労働集約型製造業がメインだった。中国はそれで稼いだお金で少しずつ豊かになってくると、自分が搾取されてきた事実に目を向け始める。

 彼たちはついに逆襲に乗り出す。産業ピラミッドの上方、つまりハイテクと金融へ移動しようとした。そのうえ、大きな軍事力を持てば、世界のボスであるアメリカからは当然、脅威に見えてくるわけだ。そこで、アメリカはいよいよ抑制力を働かせ、中国の産業ピラミッドでの上方移動を阻止しようとする。

 今日の米国の対中規制を見れば、一目瞭然――金融とハイテクにほかならない。ドル基軸の維持、半導体技術の流出阻止。つまり、上層産業サプライチェーンを中国に遮断することだ。しかし一方、下層産業サプライチェーンについてはできれば維持しておきたい。

 言ってみれば、サプライチェーンのいいとこ取りだ。では、それが果たしてできるのか?勝算はあるのか?歴史が検証することではあるが、私は無理だと思っている。

 半導体ハイテクという1つを例にすると、米国は技術の対中供給を規制しようとしている。しかし、資本主義体制では、国家の企業に対する支配力も、企業の個人に対する支配力も、制限されている。ウクライナ戦争は、石油・天然ガスというエネルギー産業が絡んでおり、個人どころか、企業も完全にそれらをコントロールすることは難しい。しかし、半導体技術は全く別物で、企業や個人の支配力が大きく、中国が優れた条件を提示すれば、技術の流出は避けられない。

 要するに、世の中、お金で買えないものはない。というのが、そもそも資本主義の原理である。人材の引き抜きを規制できるはずがない。グローバル化でヒト、モノ、カネの移動を自由にしたのは、米国西側であるから、文句は言えないだろう。

 日本人でもどこの国の人でも、3倍や5倍ないし10倍の賃金を提示されると、どうだろうか。果たして愛国心で大金を拒絶できるのだろうか。中国の官庁で昔は「出入境管理局」というが、今は「国家移民管理局」という。移民は何も先進国に限った話ではない。米国のグリーンカードは個人が移住先に投資するが、その逆があってもいい。国が個人(人材)に投資して自国に移民させることだ。

 そういうことを言うと、「売国奴」やら「技術窃盗」やら善悪の価値判断が入りがちだが、そもそも、資本主義の原初的蓄財は略奪や搾取の上に成り立っている。グローバル化それ自体も、搾取であることは既述した通りだ。中国はそうしたオーソドックスな資本主義のDNAを受け継いだだけで、元祖や先輩から糾弾されても一笑に付すしかない。

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