上海(5)~干煎帯魚、庶民派レストランと「B級」の再定義

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 この一品も上海で必食――干煎帯魚(太刀魚の揚げ焼き)。上海市民の日常食で、市内の海鮮市場ならどこでも売っている。しかし、日本やマレーシアでは珍食材の部類であるから、あまり食べられない。

「王中王餐庁」の干煎帯魚

 干煎(揚げ焼き)という調理法は和食の塩焼きと違って、身が締まり旨味が凝縮したところに油の香ばしさが加わり、外はカリカリ、中は柔らかでジューシーというコントラストが素晴らしい。干煎帯魚の調理法は非常にシンプル。この手の家庭料理なら、高級レストランで食べる必要は全くない。いや、むしろ庶民が日常的に使う食堂で食べたほうがムードもコスパも良いからだ。

 上海事務所の近くにある「王中王餐庁」は、そういう庶民派レストランだ。ただB級で一括りにしていいかというと、必ずしもそうではない。「B級」の定義にもよるからだ。レストランの内装やサービスなどを総合的に考えるなら、A級やB級の区分がしやすいかもしれないが、単に料理の味という次元でいうと、ABの境界画定が難しくなる。

 私自身のこれまでの人生を振り返ってみると、食にまつわる思い出のほとんどがいわゆるB級に起源している。言ってみれば、期待しないところから望外の喜びや感動が生まれるからだ。A級の多くはその場の感動で長続きしないが、B級の感動は自分のなかに刻まれ、なかなか容易に消えない。

 人生に大事なのは、自分にとってのA級を見つけることだ。

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