「悪しき平和」と「善き戦争」、中国に騙される国々と銃を持たされる台湾市民

 中米ホンジュラスは2023年3月25日、台湾との断交を発表し、中国と国交を樹立する。蔡英文政権が2016年5月に発足して以降、断交は9か国目。台湾と外交関係がある国は13か国と過去最少となった。

● 中国に騙される国々

 米国は、中国はよく他国に約束を守らず、騙すからとホンジュラスに警告を発してきた(2023年3月25日付ボイス・オブ・アメリカVOA)。それが事実なら、騙された国々は目を覚ましたところで中国と断交し、台湾と国交回復するはずだが、なぜ、そうなっていないのか?なぜ、台湾の国交国が減る一方であろうか?(※注)

 もっとも不思議なことに、そもそも米国自身はなぜ、率先して台湾と断交し中国と国交樹立したのか。その上、なぜ、半世紀近く騙され続けながらもなお中国と断交しないのか?米国は「台湾支援」に熱心で、武器ばかりしかも高価で売りつけ儲け続けている。それよりも大義名分を与え、台湾と国交回復するのが本筋ではないだろうか。なぜ、そうしないのか?

 それを説明できないなら、米国こそが他国を騙していることになる。騙してますか?

● AK-47を持たされる台湾市民

 米国の元国家安全保障顧問ロバート・オブライエン氏は台湾人にこう呼びかけた。「台湾もウクライナに倣って、民間射撃クラブで自衛のための銃の使い方を教えよう。何百万人もの台湾市民がAK-47を使ってあらゆる街角や団地に配置すれば、台湾は中国の侵略に対抗して恐るべき抑止力になる」と(2023年3月24日付台湾英文新聞)。

 AK-47は古い「大衆銃」だ。闇市で流通し、アフガニスタンやイラク、ソマリア、イエメン、シリア、メキシコの国境地帯で多く使われているという。米国は正規ルールのAK-47在庫処分で、台湾を全民皆兵のゲリラ国家に改造しようとしている。確かに米国の国益からすれば、それは最適解である。

 そうした意味で、米国が台湾を騙しているか騙していないか、判断するのは私でなく台湾人だ。そもそも、騙すも騙さないも、騙されたい者がいれば、騙すことも正当化されてしかるべきだ。需要と供給の関係だからだ。

● 戦争をやめるな!

 中国がウクライナ戦争の和平交渉・調停に入ったところで、米国はすぐに名指しで批判する。「中国はロシア寄りだ、中国の調停案は不公平だ、そんなものは無理だ」と。当事者のウクライナが言うならまだしも、当事者が黙っているのに、米国は何や彼や言い出して、要は「悪しき平和」よりも、「善き戦争」を続けたほうがいいわけだ。

 中東をみよ。中国の仲介の下でサウジアラビアとイランが和解し、世界を驚かせた。これからは、サウジアラビアとシリア、エジプトとトルコ、そしてイスラエルとパレスチナの和解も夢ではない。平和の光が見えてきた。中東は火薬庫から平和の地に変わる。中国やロシアが調停仲介役だから、その平和は悪き平和であろうか。米国主導の戦争なら、それが善き戦争であろうか。

 米国は戦争から利益を得ている国だ。それは国家運営モデルだ。1776年のアメリカ合衆国が誕生して以来、なんと93%の年月を戦争に費やしてきた事実を忘れてはいけない。それに比べて中国ははるかに平和愛好国ではないか。米国人にとって戦争は、文化の一部であるというならば、まさに文明の衝突にほかならない。

● 文明の衝突と文明の選好
 
 アジアの黄色人種には、中華文明とその亜種である日本文明という2つの(主要)文明だけしか公認されていない(サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』)。ただし亜種といえども日本文明はかなり独自に発展し成就した。

 いわゆる親日派の台湾人は日本文明への帰属、または親和性を自認しながらも、結局亜種のまた亜種というステータスを受け入れざるを得ない。公認されるかどうかは別だが。そもそも「親日」という言葉は、亜種の親和性を示唆するものだ。少なくとも反日的な朝鮮半島文明は、中華文明の亜種を認めつつも、日本文明との並行・競合関係を懸命に示そうとするところは、尊敬に値する。

 では、親米派の台湾人はどうだろうか。結局、中国大陸と対抗するうえで、意図的にルーツである中華文明を忌避し、他文明(文化、イデオロギー)を選好する行動といえる。あるいは「抗中親米」から利益を得ている者も多くいるだろうし、それも理解できなくはない。

● 悪しき平和と善き戦争

 善悪は、価値判断だが、平和と戦争は、事実認識。注意深く見ておくべきは、善悪を常に口々に唱える輩である。事実認識よりもまず価値判断をする輩は、プロパガンでで洗脳された人たちか、またはプロパガンダで生計を立てている人たちだ。

 私はジャーナリストでも評論家でも学者でもない。物書きで生計を立てている訳ではない。私は愛する日本や台湾のために、その病の根源を取り除くべく、率直に開陳したい。特に日本。ドイツは第一次と第二次世界大戦の敗戦国になったが、日本は第二次に続き決して第三次世界大戦の敗戦国になってはならない。

 日本も台湾も同じ。今、いわゆる右翼保守の連中(似非保守)は国家の将来に何ら責任も取らない、取れないまま米国に追随し米国に利用され、国家を戦争そして敗戦に追い込んでいく。彼らは愛国者ではなく、紛れもなく害国者だ。

● 中国はすでに昔の中国ではない

 「中国はすでに昔の中国ではない。諸外国はこの事実を受け入れるべきだ」。シンガポールのリー・シェンロン首相が直近のTV取材にこう語った(2023年3月25日付星洲網)。これは、善悪の価値判断を超越し、事実認識を呼びかける正論なのだ。

 善悪の価値判断ではない。事実認識だ。どうしても価値判断をするなら、事実認識に基づくべきだ。先週までの中国出張で私は再認識した。中国はあまり好きになれない国だが、最近は米国よりはるかにまともだと思った。

 1. 中国は他国に社会主義革命も独裁専制も輸出していない。
 2. 中国はやたら他国に経済制裁などもやっていない。
 3. 台湾は中国領土であると諸外国が認めている以上、中国が武力で独立を阻止するのも理にかなっている。
 4. 中国はウクライナ戦争への調停をウクライナを含めた諸外国から求められて行ったものの、今度その調停が非難されるのはおかしいではないか。
 5. 西側のSNSを遮断したのは中国だが、米国も同じくTikTokを禁止しようとしているのではないか。
 6. 米国債の売却は債権者の勝手だろうが、それもなぜか批判される。一方、米国はロシア資産を没収しようとしている。それを見て米国債の早期売却は当たり前の資産防衛ではないか。
 7. 中国の一般供給網はそのままにしろというが、半導体だけは止めると米国の二重基準はひどくないか。
 8. 米国はウクライナに武器をどんどん送っていいが、中国はロシアにやったら制裁だと脅迫される。
 9. 米国が言ったことはすべて正義、中国は邪悪だと。
 10. 中国が他国に金をばらまいて買収するというが、米国は他国に脅迫をして自国側に立たせる。名付けて「歴史の正しい選択をしろ」と。
 11、中国が独裁専制というが、昨今米主導のポリコレやキャンセルカルチャーは民主主義を名付けた新種独裁ではないか。
 12. 中国が他国を騙しているというが、米国は騙したことはないのか。
 13. 中国が一帯一路で他国を搾取しているというが、米国は搾取したことがないのか。搾取し続けているのではないか。
 14. 中国が国際法違反というが、米国は国際法に違反したことはないのか。いや、自分の作ったルールですら守ろうとしないのは米国ではないか。
 15. 外国への侵略戦争、中国と米国のどっちが多いのか。

 中国が悪だとすれば、米国は最悪だ。民主主義の偽装を施した世界規模のマフィアのボスであるだけに、極悪だ。しかも、恥知らず。

● 立花は反民主主義か?

 こんなことを書いていると、必ず文句を言われる。某氏から「立花さんは、反民主主義ですか」と聞かれた。私は反問する。「民主主義とは、反民主主義を容認しないのか?それなら、独裁専制とどう違うのか?」。相手からは答えがなかった。

 これだよ、私が言っていたのは――「民主主義」と銘打った新種独裁である。

(※注)
 ホンジュラスと台湾の断交。台湾政府の公表によると、ホンジュラスが台湾に合計24.5億ドルの金銭的援助を要求したが、台湾が応じなかったという。この数字は、ちょうど台湾が国交のないリトアニアに提供した12億ドルの倍。合理的な数字といえよう。ホンジュラスが中国に騙されたというよりも、台湾がリトアニアに騙されたのではないか。台湾は、国交のないリトアニアに飛びつき、国交のある国々に「釣った魚に餌をやらない」。そのやり方はまずかったのだ。

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