現代認知戦の威力、「文化安保」に取り組む理由

 米中がそろってあることに取り組んでいる――文化的安全保障(以下、「文化安保」と言う」。安全保障とは、軍事だけでなく、経済安保、さらに文化安保にまで進んでいる。

 その発端は、アメリカ発の「Modern Cognitive Warfare(現代認知戦)」。認知戦とは、ある特定の集団の世界観、観点、立場ないし行動を変えることを目的とする戦争である。具体的には、情報操作、プロパガンダ、ディスインフォメーション(偽情報の拡散)、サイバー攻撃などの手法を使用して達成される。

 ウクライナ戦争では、アメリカの現代認知戦は大勝を収めている。言い換えれば、ロシアが完敗。アメリカの手法は実に単純、以下の三段論法によって演繹されている――。

 ① 侵略戦争は悪だ。
 ② ロシアがウクライナに侵略戦争を起こした。
 ③ だから、ロシアは悪だ。

 では、問いかけよう――。侵略とは何か?なぜ侵略戦争が起こるのか?そもそも戦争は善と悪の二元論で片付けられるのか?といった問いを、アメリカは一度も提起したことがない。そして西側メディアにおいても、これらはほぼ禁句になっている。なぜなら、理性的な議論は認知戦の敵だからだ。

 単純なキャッチコピーを使う。それはヒトラーから、スターリン、毛沢東まで、共通して使われるプロパガンダの手口であり、今や米西側によって一脈と受け継がれているにすぎない。認知戦など何もアメリカの発案ではない。ただITやAIの発展によって認識戦の威力がますます拡大されたことは間違いない。

 中国の覇権が悪、アメリカの覇権は善。これも認知戦の一環である。なぜなら、中国は独裁政権、独裁が悪であり、アメリカは民主主義、民主主義が善だからだ。強いて言えば、アメリカが起こした侵略戦争は、善になる。その戦争で犠牲になった、たとえばイラク人の命は、ウクライナ人に比べれば取るに足らない存在になる。

 中国は台頭し、世界を侵略し、世界の敵になる。近代史上の中国、特に中華人民共和国は、外国を侵略したことは一度もない。中越国境紛争は、中国の明確な侵略目的ではなく、一時的な領土紛争や対立の結果として発生した。結果的に中国は戦争を停止し、撤退した。

 アメリカはどうだろうか。1776年のアメリカ合衆国が誕生して以来、93%の年月を戦争に費やしてきた事実を忘れてはいけない。それに比べて中国ははるかに平和愛好国ではないか。アメリカは戦争から利益を得ている国だ。それは国家運営モデルだ。

 領土併合でいえば、新疆やチベットの問題を引っ張り出せば、日本による琉球併合も問題として提起される。中国による台湾統一に関して、台湾が独立国家というなら、アメリカも日本も西側諸国も中国と断交し台湾と国交樹立しなければならない。なぜそれができないのか?

 「?」を提起できない大衆には、現代認知戦が多大な威力を発揮する。日本人の9割以上がすでにアメリカが仕掛けた認知戦の犠牲者になっている。

 独裁専制が100%の悪でもなければ、民主主義は100%の善でもない。世の中は白と黒の二色で構成されたわけではない。世の中はグラデーションである。

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