7月3日(月)昼前、上海料理店「暁平飯店」へ夕食の予約電話を入れる。応対が冷たい。予約は受け付けない。16時30分から店頭で受付番号札を配るから来てくれと。17時から夕食の部が始まる。食事は1時間までの時間制限あり。それではゆっくりお酒など飲んでいられない。ではお昼はどうかというと、月曜だから、運が良ければそのまま着席できるかもしれない。すぐに行くしかない。午後はアポなしだし。
正午過ぎに入店。1卓だけ空いていた。ルールでは13時過ぎにテーブルを空けなければならない。しかし昼食の部は13時40分に終了。終了間際に入店する客もいないだろうから、運が良ければ、そのまま最後まで粘れるかもしれないという私の算段である。持ち込みの白酒を出して早速注文開始。
響油鱔絲。田うなぎは先日白焼きを食べたので、今日は紅(赤)の方。油っぽくない。ギトギトしない。醤油の塩辛さを感じない。パサパサ感もない。通常は田うなぎ料理は、白いご飯がつきもの。お酒のつまみにしては濃厚すぎるからだ。しかし、ここの田うなぎは軽い。量が多いが、ほんの数分でぺろりと平らげた。白酒がぴったり。
葱油鮮黄貝。この店の看板料理らしい。アサリの殻は実の乗っていない半分は捨てられているから、総量が多い。まさにお酒のつまみである。葱油とは、刻んだ葱を低温の油でじっくりと熱し、油に葱の香りを付けたものだ。お馴染みの葱油鶏や葱油餅以外にも、上海料理に幅広く使われている。
白切肚尖。モツ類は臭みが出やすいので、通常は「醤爆」の「紅」系調理法が使われるが、「白切」となると、高度な技術が求められる。下準備の完成度が全てで、なおかつ「鮮」という旨みをしっかり出す必要がある。この店はほぼ合格ラインで、コリコリ感もしっかり出ているが、大量生産しているせいか、やや荒い。
韭黄猪肝。日本人がいう「レバニラ炒め」とは全く別物だ。日本の場合は、ニラの他にモヤシを入れたりもする。さらにニンジンやタマネギ、パプリカなどを入れることもあり、オイスターソースや豆板醤で味づける。はっきり言って乱暴極まりない。何よりも、肝心なニラも違う。黄ニラは完全に別物、繊細さでは普通のニラの比ではない。
干煎海寜臭豆腐。ここの臭豆腐もやはり、臭さが足りない。上品すぎる。繰り返しているが、紹興地方のカビ系料理を熱愛する私の「臭さ」感度は、異常でもう病的な世界に突入しているから、私の基準で世界を測ってはいけない。ごめんなさい。十分に美味しい。ただ上等な紹興酒がないのが玉に傷。
醤爆腰花。「腰花」とは、腎臓のスライスに包丁で碁盤の目のように切り口を入れて、味が染み込み、そして舌触りがよくなるようにしたもののことを言う。腎臓となれば、敬遠する人も多いが、実に美味い食材である。さらに睾丸も上海料理ではないが、食通の間で人気のある希少食材である。
咸蛋黄茄子。茄子の塩卵黄身天ぷら、これは珍しいので、食べてみた。いや、絶品だ。一番奥に隠れるふわふわの茄子の身、中間に程よく硬さを成す茄子の皮、外にパリッとした風味たっぷりの衣、この3重層、立体的な混合体は素晴らしすぎる。この料理を考案した人は天才だ。
上海菜泡飯。スープを受け付けるキャパはもうお腹にない。そこであっさり系のこの1品で締めくくる。青菜入り汁かけご飯、上海人(ザンヘーニン)のおふくろの味。これで昇天する。上海にはやはり上海料理。上海在住時代にあまり食べなかったが、マレーシアに移り住んでからその良さに目覚めたのである。
13時40分、昼食の部の終了というが、続々と客が入り、一向に閉店する気配はない。私が食べ終えた14時現在、まだ満席状態。入れ替わりが早く、なんとか私は追い出されることなく、2時間をいただいた。本当にご馳走様でした。