汚染水問題(5)~海洋放出の代替案、日本はなぜ拒否したのか?

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● 合理的な代替案

 中国とロシアは、汚染水の海洋放出に代わる代替案、蒸発処理案を日本に提示したが、日本に拒否された。このことを知っていますか?私は初めて聞いた――。

 蒸発処理とは、汚染水を蒸発させ、放射性核種を水中に残したまま水蒸気にした後、水蒸気は冷却・凝縮されて水になり、二次処理を経て排出または再利用される方法である。一方、水中に残された放射性核種は、さらなる漏出や拡散を防ぐために固化または密封される。蒸発処理は海に直接放出することに比べれば、被害リスクが少なく、妥協と譲歩の産物である。

 中国とロシアは、永久的に汚染水を溜め込むことができないとする日本側の立場を理解しており、妥協・譲歩案としてこの蒸発処理案を日本に提示し、採用を求めてきた。しかし、日本側は中露の提案を一蹴した。日本政府は、あたかも「海洋放出」の一案しかないかのように国民や海外に印象付けてきた。それはなぜだろうか。

● コストの問題か?

 表向きの原因はおそらくコストにあったのではないかと思われる――。

 海洋放出のコストは30億円だが、蒸発処理はその10倍にあたる300億円以上かかるからだ。しかし、日本の経済力や将来的リスクを考えれば、300億円はまったく高いコストとは思えない。汚染水海洋放出後の日本の関連業界の損害だけでも軽く年間1000億円を超える。

 さらに日本政府が国民の血税を動員して業界に補てん・補償を行う。そのうえ海洋放出が長期化し、将来的損害賠償のリスクも生じ、これら諸々を折り込むと、数兆円、いや数十兆円規模に上るかもしれない。300億円を投入すれば、少なくとも中国やロシアは黙るだろうし、水産物禁輸などもなかっただろう。

● 闇、闇、闇

 日本の政治家は、これくらいの計算もできないとは思えない。それよりも裏取引の存在が疑われる。つまり、自民党政権は東京電力から何らかの利益供与を受けているのではないかという疑いだ。

 8月25日、野村哲郎農相は記者会見で発した「まったく想定外」の発言は、東北数県対象の一時的・限定的な規制を前提に組まれた「予算」は、まさかの全面禁輸で完全に狂ったという驚きの現れだったのではないか。

 さらに8月27日、福島原発の汚染水放出現場に初の外国人記者を受け入れた。中国中央TVの取材では、東京電力は「海洋放出以外の選択肢を検討したことがない」と述べた。日本側が中露からの提案を一蹴したことが事実であれば、東電の「未検討」発言は、意図的な情報隠蔽である可能性も出てくる。

 これからの展開に注目したい。もしや第一陣の海洋放出を終えたところで、岸田政権は「蒸発処理という代案を検討し、採用する」と白々しく言い出し、方向転換する可能性もなくはない。こういうことを国民や野党がどんどん追及していくのが、民主主義の真義ではないか。

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