汚染水問題(6)~台湾の飼い犬化、反中に脊髄反射する保守右派

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● 台湾は日本の飼い犬に成り下がった

 台湾在住の友人、ジャーナリストの早田健文氏は台湾メディアの取材にこうコメントした(主旨)――。「日本の汚染水放出は、不道徳です。台湾の漁師も被害者なのに、台湾政府はなぜか黙っている」。台湾民進党政府は、日米の飼い犬だ。日本の行為は不道徳、その通りだ。私は早田氏の勇気ある発言を強く支持する。

 日本の水産物を台湾経由して中国に輸入することは、違法の密輸と同じ。いずれ台湾を巻き込み、中国が台湾産水産物や加工食品への規制にも乗り出せば、台湾は連帯的被害者になる。「別ルートの中国輸入」は、違法で、得意げに言えたものではない。

 台湾政府は日本の汚染水海洋放出について、韓国以上に積極的に受け入れ、日本に協力的な姿勢を見せている。謝長廷・駐日代表(大使)は温泉を例に「微量の放射線は健康に有益だ」とする「親日」論をばらまき、台湾島内でも総スカンを食らっている。とんでもない話だ。

 米国の飼い犬である日本を見下すが、日本の飼い犬である台湾をもっと見下す。謝氏もその1人。私は、謝長廷氏が共著する『台湾有事 どうする日本』(東アジア情勢研究会編集・方丈社、立花は第7章執筆)について、補筆できないのが誠に残念だ。今の状態なら、私は執筆を辞退していただろう。

● 反中に脊髄反射する保守右派

 先述したように、日本政府は汚染水問題について国民の矛先を中国に向けるよう、国内問題を外部へすり替え、プロパガンダを行ってきた。論理性なき洗脳、大衆煽動は、すべて愚民政策の一環として取り組んできた。日本の動作はすべてアメリカの望む形ではあるが、残念ながら、大衆は頓馬で、分別ができない。

 汚染水問題は科学性云々よりも、中国は自国利益のために戦っている。しかし、日本は米国の利益のために自国利益を犠牲にしている。日本政府は大衆を煽り、太平洋戦争を起こし、原爆を食らった。今の日本政府はまた大衆を煽り、しかも米国の手先になり、原発汚染をばら撒き、世界に挑発を試みている。許されてはならない。

 体裁を成していない日本を批判するのは、まさに保守のなすべきことだが、日本国内のいわゆる保守右派は頓馬が多く、中国批判に脊髄反射するだけで、あとは何もできない。

● 二階氏が訪中?手土産は?

 中国による日本産の水産物全面禁輸に抗議・反発するよりも、WTOに提訴すればいい。自民党内では提訴を求める意見が出された。日本はかつて同じく福島第一原発の放射能汚染を理由に韓国の水産物輸入制限をWTOに提訴したが、その時苦い経験を味わったはずだ。

 今回、勝敗以前の問題で、一度強硬姿勢で提訴してしまえば、なかなか取り下げることができないし、他の選択肢も使えなくなる可能性が高い。さらにWTOで日本が負けた場合の連鎖反応は、大きすぎる。中国追随が続出し、ダメージは水産物から食品産業全般に及び、日本のイメージの棄損につながる。

 早速、岸田首相は8月30日、事態打開に向けて二階俊博氏と会談し、「中国側と話せるのは二階元幹事長しかいない。ぜひ中国を訪問してほしい」と要請した(テレビ東京報道)。結局、二階氏をさんざん批判し、幹事長ポストから引きずり下ろした岸田氏自身が、二階氏に泣きと詫びを入れて「中国との関係を何とかしてくれ」と頼み込む。それだけ中国に追い詰められている。

 二階氏が訪中するなら、手土産を用意しければならない。汚染水でも処理水でも、無害であることを証明する必要があろう。証明するには、どうすればいいのか。その水を使って養魚場を作ったらいい。名付けて「ALPS養魚場」。中国に専門家の派遣を要請し、一定期間の検証をもって、その魚に問題がないことが証明されれば、なんとか水産物輸入を解禁してもらうと。あるいは、中国の要請を受け入れ、汚染水の蒸発処理に切り替えるのも一案。

 早速、第1ラウンドは日本の負け。

● 中国に勝てない理由

 国際政治における戦いでは、日本が中国に恒常的に負けている。なぜだろうか。一言で簡単にまとめると、中国は「戦略」、日本は「戦術」だからだ。戦略の根底にあるのは、「内在的論理」を理解しているかどうかだ。「内在的論理を理解する」とは、相手の独自の考え方を相手の立場から考えて、理解しようということである。

 人間は、ときに自分の「正しさ」を主張するあまり、相手の「正しさ」を見失ってしまう。相手には、相手の筋(論理)の通る「正しさ」が存在しているのにもかかわらず、相手が「間違っている」「悪い」と決めつけた時点で、相手の「正しさ」はすべて抹殺され、言及すらできなくなってしまう。

 もっとも、「相手の正しさ」を持ち出した時点で、「あなたは誰の味方だ」と敵側のレッテルを張られ、指弾され、時には人格否定までされる。たとえば、中国はこうして自分の正しさを主張するのだと言うだけで、「あなたは、反日だ」と批判や否定の嵐がやってくる。並みの人間は二度と言わなくなる。

 中国人は違う。彼たちは、「日本人はどのように考え、次はどのように動くか」を考え、そこでシナリオを描き、戦略を構築する。しかも、状況の変化によって、ヒューリスティック的に臨機応変で対応するわけだ。

 汚染水放出の件。日本の政治家は「科学的根拠」と「米国の支持」という2点にしがみつき、中国の内在的論理を全く理解していない。「想定外」が続出するのは、「想定しようとしない」からだ。

 想定とは、相手がどう出るかを想定することで、相手がどう出るかは、相手がどう考えているかを想定することだ。想定の原点は、相手の「内在的論理」を理解することだ。

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