汚染水問題(7)~日本の海洋放出に反対する、10の理由

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 このたびの日本の汚染水海洋放出に、私は反対し、中国をはじめとする各国の抗議と中国による日本産水産物全面禁輸を含む対抗措置を支持する。その主な理由は次の10点にまとめたい。

 1. 中国など各国の原発から排出している「廃棄水」は、原子炉の正常な冷却水であり、放射性物質と直接接触することはない。福島から排出しているのは、デブリ(炉心、事故で核燃料が溶け落ちたもの)に接触した「汚染水」である。「汚染水」と「廃棄水」は全く異質なものである。

 2. 「汚染水」は、放射性物質を直接通過したものであり、トリチウムを含む64種類の核放射性物質を含有し、「廃棄水」より危険度がはるかに高い。トリチウム以外の62の放射性核種の濃度が全体として排出基準を上回っており、最大で基準の2万倍近くとなっている。

 3. タンクに残留するこれらの放射性物質の総量が示されていない。東電は放出する放射性物質の種類と量として示しているのは、3つのタンク群のみ。タンクの水全体の3%弱にすぎない。現在、タンクに貯められている水の約7割については、トリチウム以外の放射性物質も基準を超えて残留しているため、「処理水」とは言えない。

 4. 環境中のトリチウムの量が少しずつ多くなることの累積的影響についてはまだわかっておらず、世界中の原発から出されているからよい、ということにはならない。

 5. 6万ベクレル/リットルというのは、原発敷地内に排水以外に考慮すべき放射線源がない場合、かつ排水中にトリチウムのみが含まれている場合の基準になる。トリチウム濃度を排出濃度基準の「40分の1」に希釈するという表現は、ミスリーディングである。

 6. 「大型タンク貯蔵案」や「モルタル固化案」など、海洋放出以外の代替案もあるが、議論されていない。中国とロシアは、汚染水の海洋放出に代わる代替案かつ妥協・譲歩案として、蒸発処理案を日本に提示し、採用を求めたが、日本はこれを拒否した。拒否の理由も不明のままになっている。最終的に日本は近隣国など利害関係者と協議もせず、一方的に海洋放出を決めた。

 7. 海外のみならず、国内においても代替案の検討や利害関係者との協議はほとんど真剣に行われていない。
 ● 汚染水をこれ以上増やさないために、福島大学の柴崎直明教授らの研究グループは、広域遮水壁の建設を提案したが、真剣に議論されなかった。
 ● 政府および東電は2015年、汚染水に関して「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と文書で約束をしたが、一方的に反故にした。
 ● 政府が海洋放出方針を決めた2021年4月以降では、23市町村議会が意見書を可決。そのうちの16市町村議会が、方針の撤回や反対、処理水の「陸上保管」を求める内容で、6議会が風評対策や丁寧な説明を求める内容だった。いわき市議会は、政府や東電に対して、漁業者との「約束」の履行を求める内容だった。
 ● 政府は2018年8月、福島と東京で、「説明・公聴会」を開催した。意見を述べた44人のうち、42人が明確に海洋放出に反対した。その後、公聴会の開催は打ち切られた。

 8. 国際原子力機関(IAEA)の調査報告書は、決して「お墨付き」になっていない。
 ● IAEAの報告書は、基本的に日本政府・東電から提供された情報に基づくものであり、海洋放出以外の代替案についてはレビュー対象となっていない。
 ● IAEAの報告書は、「推奨するものでも、承認するものでも、ない」と位置づけられ、「この報告書は、IAEAの観点を代表するものではない。またこの報告書を使用することによってもたらされるいかなる結果にも責任を負わない」と記されている。
 ● IAEAは原子力の利用を促進する立場の機関であり、利害関係者の1員であり、中立とは言えない。 また、IAEAの安全基準と照らしてみても、少なくとも「正当化(justification)」、「幅広い関係者との意見交換」に適合していない。

 9. 日本は海洋放出にあたって一方的に「安全だ」と謳いつつも、将来に向けて地球範囲内に生じ得るリスク・災害とその対策、被害が発生した場合の責任所在、賠償条件等については一切提示していない。

 10. 上記各項について、日本政府も日本国内メディアも回避し、真正面から向き合おうとしない姿勢は不誠実であり、信用・信頼を失わせるものである。2023年8月27日、福島原発の汚染水放出現場に初の外国人記者を受け入れた。取材はすべて東京電力のスタッフ同伴・監視下で行われ、記者は自由に録音や録画をすることも、携帯電話やコンピューター、ビデオ機器の持込みもすべて禁止されていた。

※注:技術面や一部の手続における情報ソース:FoE Japan

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