汚染水問題(12)~華為のスマホと日本の魚、中国に勝てるのか

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● 魚を国内消費に回す

 今朝(2023年9月6日)、日本国内各紙に特定の団体から意見広告が出された――。「日本の魚を食べて中国に勝とう」

 「中国と香港への日本の水産物輸出は年間約1600億円です。私たち一人ひとりがいつもより1000円ちょっと多く福島や日本各地の魚や貝を食べれば、日本の人口約1億2千万人で当面の損害1600億円がカバーできます。安全で美味。沢山食べて、栄養をつけて、明るい笑顔で中国に打ち勝つ」

 非常に単純明快なことだ。国家のために国民が一斉にある行動を取るよう仕向ける。いささか戦前戦中の全体主義、精神論的なムードが漂い、セピア色のレトロさを感じずにいられない。

 グローバル化時代の終焉と言われている。国家・地域間の商取引は何らの理由で止められたりすると、サプライチェーンの再構築を余儀なくされる。たとえば、中国が日本の魚を買わないと、日本はその魚を売るには別の販路を開拓したり、あるいはこの広告に謳われているように国内消費に回したりする必要が生じる。

 サプライチェーンの再構築。その成否がカギとなる。国民一人ひとりが1000円多く出せば、魚の問題は解決する。理屈はそうであっても、実際にうまくいくのか。

● 半導体を国内製造に切り替える

 絶妙のタイミング――。8月末のレモンド米商務長官の訪中に合わせて、中国の華為(ファーウェイ)はついに国産先端半導体を搭載した最新型スマートフォン「Mate 60 Pro」を発売した(詳しくは、動画『▶ K0641-<時論>華為最新スマホの波紋、対米ハイテク戦の勝利?』参照)。

 米系専門調査会社テックインサイツがMate 60 Proを分解したところ、中芯国際集成電路製造(SMIC)が中国で生産した7ナノメートルの半導体先端製品(麒麟9000sチップ搭載)を採用していることがわかった。「Mate 60 Pro」は、米アップルのiPhone 14とほぼ同レベルでさらに衛星通信機能がついている。

 予想より早かった。米国の対中半導体ハイテク規制(制裁)の第1ラウンドが失敗した。

 華為の2022年の研究開発費投入は1615億元(3兆2000億円)、売上高の4分の1以上を投入した計算だ。「Mate 60 Pro」に使われる部品もほぼ国産である。つまり、中国は半導体という新たな産業サプライチェーンを国内に作り上げたのだ。これもひとえに米国による規制のお陰だ。それがなかったら、未だに外部供給に頼っていただろう。

 中国は人材の宝庫。台湾ができたことで中国にできないはずがない。7ナノから5ナノ、3ナノまで、台湾積体電路製造(TSMC)は数年で追い越されるだろう。一方、TSMCは米国の指示に従い、米アリゾナ州や日本の熊本県で10兆円規模の投資で着々と半導体工場を建設している。多大な初期投資と先進国の高コストを考えると、やはり無謀だったように思える。

 中国製半導体の価格的優位性はこれから、世界で確実に市場シェアを奪っていく。対照的にTSMCやサムスンなど西側陣営半導体メーカーは中国という大市場だけでなく、その他の小市場も次々と失い、苦境に陥る可能性が大きい。その時になって米国は西側の子分たちに高い非中国製の半導体を強制的に使わせるだろうから、芋づる式に全面的競争力の低下につながるだろう。

 後続情報――。

 2023年9月6日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、中国政府が公務員の職務中におけるiPhone使用を禁止したことを報じた。職務中といっても、普通スマホは1人1台だから、私用域からも排除されることになる。さらに共産党員も適用対象にすれば、ざっと、1億台規模。Appleは大変だ。対日の水産物禁輸はかわいいものだ。

 2023年9月9日、華為は立て続けに3つ目をリリース――Mate X5。5Gよりも早いと。

 非公式の中国筋情報によれば、華為が秘密の半導体製造工場を複数箇所建設した(建設中の)ようだ。半導体製造装置も含めて完全国産化で、中国はハイテク産業の覇権を目指す。具体的には華為は来年末までに半導体5nm以上に到達、3年後に台湾TSMCに追いつくという。半導体製造装置を含めて全半導体産業の世界トップを目指す。

 さらに、中国という最大市場からAppleを駆逐するつもりだ。Appleの株価が急落した。ただAppleを殺したのは、華為ではない。アメリカ政府だ。華為が一時スマホ市場で2億台をマークしたところ、米政府が抹殺にかかった。全面制裁でどん底に突き落とされた華為は、「われわれには勝利以外に退路がない」と、臥薪嘗胆で逆襲を仕掛けた。

 「神にしかできないこと以外は、全てできる、できるようにする」というキャッチフレーズ。日本人の「頑張る」論は、「できる論」の前でいかに無力か。

 繰り返しているが、今は西側の脱中国ではなく、中国の脱西側だ。米国の敵になるのが、危険だ。米国の友になるのが、致命だ。「長いものには巻かれろ」というが、米中のどっちが長いか、日本人は見極める必要がある。日本人一人ひとりが1000円多く日本の魚を食べれば、果たして中国に勝てるのだろうか。

● 日本はWTO提訴できない理由

 では、法で戦ったらどうか。世界貿易機関(WTO)への提訴を検討するとともに、岸田首相が9月6日、ASEAN+3の会合で李強首相と立ち話をした。首相官邸のサイトで伝えられた記者と首相の問答は、こうなっている――。

 「(日本の水産物)禁輸の即時撤回を求めたのか否か」について、首相は「日本の立場を説明した」。さらに「なぜ明言されないのか」「立場の説明に、禁輸の即時撤回も含まれているのか」についても、首相はすべて回答を避け、「日本の立場を説明した」で押し通した。即時撤回ですら、面と向かって求められない一国の首相であるから、もうとっくに足元を見られた。

 WTO提訴はもうできないだろう。WTO提訴の場合、時間がかかるだけでなく、日本敗訴の可能性が高い。

 考えてみればわかる。WTOが日本にOKサインを出したら、将来的に汚染水問題のあらゆる責任をすべてWTOが取らなければならなくなる。そんなことはできまい。

 日本にも都合が悪い。提訴すれば、中国は証拠調べ請求を提出する。まずは、物証。福島の現場は複数の第三者検証を受け入れざるを得ない。汚染水の採取・検測、ALPS技術関連の精査、いままで非公開だった内容は露出する。次に、証人や鑑定人などの尋問・聴取。東電側・国側の関係者の証言に不都合な内容が含まれないという確信は持てるのか?

 日本は、提訴できない。足元を見られている。

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