汚染水問題(14)~ワクチンと福島魚、大衆煽動と「風評被害」

<前回>

● ワクチンと福島魚

 マレーシアの自宅ではホタテを仕入れようとしたところ、現地の卸売業者から丁寧に「日本産ではないので、ご安心ください」と念を押してくれる。笑うに笑えない。日本国内にいるなら、分からないだろうが、汚染水を流す日本は海外では、総スカンを食っている。 ただただ謝るだけ。申し訳ない。日本や日本人の名誉が崩れ落ち始めている。

 マレーシア在住の某高級日本料理店日本人オーナーA氏は、福島魚を食べて「問題なし」と太鼓判を押す。SNSに投稿するよりも、A氏の店頭に「当店は全て日本福島産魚を使用」との張り紙でも出されたらどうだろうか。マレーシア人客はどんな反応するか、興味がある。

 A氏は自称自民党の上級(大口)支持者・スポンサーで、以前、ワクチンの空打ちで不正に接種証明書を手に入れたことを自慢していたことを思い出す。本当かどうか、事実は未確認だが、今度も福島魚を食べるふりをして、本当に食べたかどうかは知りようがない。もしや――。

 ワクチンは打て打て、自分は空打ち。
 福島魚介は食え食え、自分は空食い。

● 言行不一致は政治の常識

 A氏を批判しているわけではない。言行不一致は政治の常識だから、別に珍しくもない。問題はそうした言行不一致の連中を信じてしまう大衆である。正直に言うと、自民党の追随者の多くは、頭が良くない。保守の本義を理解できず、単に「符号」だけを追いかける。そして単純米国追随の自民党が抱えるリスクは感知できない。

 ゼロサムゲーム、賭けに負けた場合、逃げ道はどうするのか。マクロ的に世界情勢という視座、将来に向けての歴史的視野が欠けているからだ。

● 大衆煽動

 支配者の大衆煽動――。

 その時、その場所、その人物、置かれたその条件下で、大衆のその心がそのように動く。大衆が動けば、数でものを言う(言わせる)民主主義が機能し、(負の)威力を発揮する。ヒトラーは大衆煽動の天才だったが、今の時代は、広告会社等のプロがその役割を引き受ける。より専門的で、ネットがさらに大きく相乗効果を果たしてくれる。

 戦争や悪事を推し進める最大の当事者は、常に大衆。戦後処理は、大衆を処分・処罰することができないから、限られた戦犯が大衆の代理となり、受刑する。しかし、大衆はまた自分の愚悪に気づかないまま、歴史を繰り返す。ハンナ・アーレントはこれを「悪の凡庸さ」と位置づけている。汚染水の一件、恐らくも国家による大衆煽動の効果を目の当たりにし、鳥肌が立つ。

● 「風評被害」の誤解

 事実に基づくのは、「風評」と言わない、「仮説」という。仮説に基づくのは、「リスク管理」という。福島魚を食べるのは、漁師を支援するのでなく、政府を支援することだ。漁師は汚染水放出には反対である。

 政府いわく「科学的検証」「問題ない」とは、以下の内容の要約された表現である――。

 「現時点において、限られたリソースの下で、既存の知見に基づき、特定の当事者の間で、場合によっては特定の利害関係の影響も受けながら、正しいように見える仮定的結果または仮説的結論である。ただし、これはすなわち将来的に想定または期待していた結果・結論の完全現実化を意味し、担保するものではない。政府と関係当事者らは、これらの想定外の結果・結論によってもたらされるいかなる損失・損害にも一切の責任を負わない」

● ロシア産は安全か?

 全ロシア漁業海洋科学研究所のキリル・コロンチン所長は先日、東方経済フォーラムで次のように説明している。「我々の調査・分析結果によると、ロシア産水産物は懸念することは何もない。日本産は分かりかねるが、とりわけロシアの漁業者にとっては問題はなく、我々の食卓も大丈夫だ」

 ロシアは、機に乗じて自国産の水産物を売り込んで中国や他国の市場を奪っている。中国の日本産水産物禁輸が長期化すればするほど、サプライチェーンの形態が定着し、日本の将来的な市場奪還が困難になる。日本産水産物の主な代替国は、ロシア、オーストラリア、ノルウェーなどだ。

 結局のところ、みんな自分の利益しか見ていない。

<次回>

タグ: