中国は実力行使するか?仁愛礁の座礁艦問題から「戦略」を学ぶ

 先日、南シナ海の上空を飛ぶ飛行機の中から見下ろすと、名の知らない〇〇礁がいくつも見えてきた。これらの小さな島や礁は中国と東南アジア諸国の間で争われる元になっている。

 なぜ争われるか?メディアは往々にして「国家主権問題」として単純化してしまうが、そんな簡単なことではない。国家主権は対外的な大義名分だが、そのほかに例えば海底資源といった経済的利益、軍事拠点化による軍事的利益、そして何よりも誰にも言えない政治的利益も隠されている。

 仁愛礁(セカンド・トーマス礁の中国名)の座礁艦問題は好例だ。中国外務省は8月8日、フィリピンに対し座礁した老朽艦の即時撤去と原状回復を改めて求め、「24年が経過しても撤去するどころか、恒久的な占領に向け大規模な改修・補強を試みている」と厳しく非難した。

 それを受けてフィリピンはおとなしく座礁艦を撤去するはずがない。そんなことはわかり切っている。ではどうするのか。中国が実力行使で強制撤去に乗り出すだろうと、だれもがそう読む。アメリカはむしろ、そうなるよう仕組んでいる。8月初旬からレーガン号の空母打撃群をフィリピン海に展開させる米国はフィリピンに「中国を恐れるな、親分がいるぞ」と煽る。

 中国は座礁艦を強制撤去する力を十分もっている。やろうとすればいくらでもできる。結局のところ、撤去した際の損得を天秤にかけて評価するわけだ。

 8月13日、ASEANと中国が南シナ海における行動規範(COC)を策定するための指針について合意したと発表された。COCが決まれば、今後、南シナ海問題に米国が介入することが難しくなる。COCの締結を妨害するには、中国とASEANの対立を煽り、分断する必要がある。そこで仁愛礁問題が格好の材料となる。

 一方、中国は、意図的にトーンを上げている。それも目的がある。いかにも実力行使するかのような強硬姿勢を見せながらも、最終的に「理性的」な紳士を演じ、ASEANの対中好感度を上げ、米国に挫折感を味わわせる。それだけでなく、それによって南シナ海での軍事力増強の口実、実利も得られる。

 要するに米中のどちらも、仁愛礁を材料として使う。もちろん異なる仮説も構築できる――。中国はこの際に実力行使し、圧倒的な強さで米国の無力さをASEANに見せつけ、一気に切り込んでいく。そういう展開も取り得る。いずれにしても、中国は戦略と戦術次元で損得の評価をしたうえで、意思決定を行うだろう。

 一見、日本人に無関係に見えるこういった出来事は、国際政治の本質を理解するだけでなく、われわれの戦略眼を養ううえで貴重な学習材料にもなるから、利用しない手はない。

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