青い、上海の空が青い。それはガソリン車が減ったお陰かどうかわからないが、とにかく上海はガソリン車が減り、電気自動車(EV車)が驚くほど増えている。目測によれば、上海の自動車のちょうど半分、タクシーの9割以上がEV車。上海市内のタクシーやハイヤーに乗車するたびに運転手にヒアリングを行った。
結果としては、基本的にEV車の導入に賛成か大賛成。反対の声はゼロだった。「EV車は頻繁に充電が必要で、充電時間も長いし、冬場など特に電力消耗が激しく、不便ではないか」と、私が意図的に暗示をかけ、「誘導尋問」をしてみると、こんな答えが返ってくる――。
「確かにそうした問題はある。だが、今はEV車の導入期で、若干時間がかかっても、どんな技術でも成熟するだろう。趨勢はEV車だ。疑う余地はない」
典型的な「ヒューリスティック」型の思考回路だ。
日本人は一般的に、「オプティマル(optimal)」型思考回路で、なんでも「熟議」「最適解」「最善策」を求める。新しい考え方や事物に対してすぐにデメリットや問題を指摘し、否定的な姿勢を取る。しかし、オプティマルにたどりつくまでは、長い時間やコストがかかったりする。その間に状況が変わり、そこで得られたオプティマルはもはや、最適でも最善でもなくなっていることが多い。しかし、日本人は「既定方針」に固執し、そこで大やけどするわけだ。
それに対して、中国人は全体的に、「ヒューリスティック(heuristic)」的な傾向が見られる。必ずしもすぐに最適解を導けるわけではないが、方向性だけはしっかり定めたうえで、試行錯誤を繰り返しながら、最適解に近づいていくというアプローチだ。
日本人から見れば、経営者も含めて中国人は軽率な意思決定をしたりすることが多い。独裁的で熟議に欠ける決断ではうまくいかないだろうと、ヒヤヒヤしたりする。確かに失敗に遭遇することも多いが、ただ彼らの軌道修正もヒューリスティック的で早い。試行錯誤を早いペースで繰り返していると、失敗データと成功データの処理量が日本人よりも多くなり、そのデータの蓄積・活用度の高さによって、オプティマルに近づくスピードも総じて日本人よりは、早い。
「摸著石頭過河」という中国語の成語がある。「渡ったことのない川を渡る。水深も知らないところで川底の石で足場を確かめながら一歩ずつ川を渡っていく」という意味。ヒューリスティック的な典型といえる。鄧小平もこれを基本理念とし、「改革開放は正しい事業だと思う。ならば、大胆に試みよ」という趣旨のことを言っていた。
良い意味でも悪い意味でも、中国は大きな成果を挙げた。これは否定できない。「ヒューリスティック」で「オプティマル」に近づくという方法論は立派だ。日本人はこれに学ばなければならない(しかし、学ぶ姿勢が見られない)。
変化の速い時代、不確定性の時代には、「ヒューリスティック」が「オプティマル」より大きな優位性をもつ。