沼津食い倒れ日記(7)~シーラカンス、適者生存法則の多軸論考

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 シーラカンスを見ずには帰れない。沼津港深海水族館は、世界で唯一シーラカンスの冷凍標本が見られるシーラカンス・ミュージアムでもある。

 恐竜は実は生きていた。それに近い話であった。化石で発見され、恐竜とともにすでに絶滅したと信じられていた古代魚、シーラカンスは何と80年前の1938年に南アフリカ沖で捕獲されたのだった。しかも、3億5000万年前と変わらぬ姿のままで。20世紀最大の生物学的発見とも言われるこの出来事によって、学会も世界も騒然となった。

 以来、南アフリカやコモロ諸島、タンザニア、インドネシアでもシーラカンスは続々と見つかっている。興味深いのは、なぜ化石となったはずの古代魚が生き残れたのかだ。

 シーラカンスの仲間は26種類ほどあるものの、現在生存が確認されたのは、深海に潜むラティメリアのみ。川などに住んでいた他のシーラカンスはすべて絶滅していたという。その原因は何だったのか。一説によると、3億5000万年の間、ほぼ変わることのなかったのが、深海の環境だった。安定した環境下では、進化も必要なかったと考えられていたのだ。

 よく考えると、「環境」とは横軸と縦軸によって構成されている三次元である。一般的にわれわれが捉えている「環境」はあくまでも横軸の地球表層にすぎない。ガラパゴスも断絶された表層という意味で進化論の研究対象となったわけだ。しかし、深海という環境はむしろ物理的な連続性を有しながら、3億5000万年も変化しなかったというパラドックスを見せている。

 もし、ダーウィンが存命中に深海生物の調査が可能だった場合、彼は自身の進化論にどのような展開をもたせたのだろうか。つまりは「不変な環境」という新たな仮説が加わることである。その場合は、ある意味でもう1つの側面から進化論を裏付け、強化することになる。

 「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」という言説は、「不変な環境」を除外する但し書きを加えれば、従来通りに通用する。

 ただ縦軸となる深海の「不変な環境」と、横軸となる表層の「変化する環境」とは本質的に異なる。深海の高水圧、低水温、暗黒、低酸素状態などの過酷な環境条件という前提を忘れてはいけない。いずれにしても、不変の過酷さと変化の過酷さに直面する生物には、「適者生存」という法則が恒久的に適用する。

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